2026/01/26 経営・DX

じゃらん・楽天トラベル依存の温泉旅館、手数料15%で利益が消えていく

じゃらん・楽天トラベル依存の温泉旅館、手数料15%で利益が消えていく

「売上は確かに増えました。でも、手元に残るお金が全然増えないんです」

先日、ある温泉地の老舗旅館の若女将からこんな相談を受けた。コロナ禍明けで客足は戻り、じゃらんや楽天トラベル経由の予約は順調。なのに、決算を見ると利益率は10年前の半分以下になっていた。

原因を調べていくと、売上の15%がOTA(オンライン旅行代理店)への手数料として消えていることが判明した。年商1億円の旅館なら、1,500万円が東京のプラットフォーム企業に流れている計算になる。

💡 この記事のポイント
  • じゃらん・楽天トラベルの手数料構造と、地方旅館の利益が吸い上げられる仕組み
  • 自社サイト予約比率1割以下、価格決定権喪失という「デジタル化の罠」の実態
  • 由布院温泉の地域DMO、城崎温泉のLINE活用など、プラットフォーム依存から脱却した事例

OTA手数料の実態:売上の15%はどこに消えるのか

「ネットで予約できるようになって便利になった」——これは事実だ。しかし、その裏側で何が起きているのか、多くの旅館経営者は気づいていない。

じゃらん・楽天トラベルの手数料構造

リクルートが運営するじゃらんnet、楽天グループが運営する楽天トラベル。この2大OTAの基本手数料率は、宿泊料金の8〜12%とされている。しかし、これはあくまで「基本」の話だ。

実際には、検索結果で上位表示されるための「プレミアムプラン」や「特集掲載料」、ポイント付与原資の負担などを加えると、実質的な手数料負担は15%前後に膨れ上がる。

観光庁の「宿泊旅行統計調査」によれば、2023年の日本人延べ宿泊者数は約4.7億人泊。このうちOTA経由の予約比率は年々上昇し、中小旅館では7割を超えるケースも珍しくない。

「見えない手数料」の正体

表向きの手数料率だけでは見えないコストがある。

ある九州の温泉旅館(客室数20室、年商約8,000万円)の事例では、OTA関連の費用を詳細に分析したところ、以下のような内訳になっていた。

基本送客手数料として約10%、さらに検索上位表示のためのプロモーション費用が約3%、ポイント原資負担が約2%。合計すると、OTA経由の予約1件あたり約15%が手数料として消えていた。

年間売上8,000万円のうち、OTA経由が70%(5,600万円)。その15%にあたる840万円が、毎年東京のプラットフォーム企業に流れている計算になる。

この金額があれば、従業員1名を追加雇用できる。あるいは、老朽化した客室の改装ができる。地方旅館にとって840万円は、決して小さな金額ではない。

価格決定権を失った旅館たち

手数料だけが問題ではない。OTA依存が進むと、旅館は価格決定権すら失っていく。

「ベストレート保証」という縛り

じゃらんや楽天トラベルとの契約には、「ベストレート保証」条項が含まれていることが多い。これは「自社サイトを含め、他のどの販売チャネルよりも安い価格をOTAで提示する」という約束だ。

つまり、自社サイトで値引きすることすらできない。

「うちのリピーターさんには、少しでも安く泊まってほしいんです。でも、OTAより安い価格を出すと契約違反になる。だから、公式サイトでは同じ価格で、代わりに『特典』をつけるしかない」

これは、兵庫県の城崎温泉にある旅館の経営者から聞いた言葉だ。

口コミ評価に支配される経営

OTAの検索結果は、口コミ評価によって大きく左右される。評価が下がれば表示順位も下がり、予約が減る。

この仕組みが、旅館経営を歪めている。

「クレーマー気質のお客様でも、悪い口コミを書かれるのが怖くて強く言えない」「本当は断りたい無理な要求も、評価を気にして受けてしまう」——こうした声は、取材した複数の旅館で共通して聞かれた。

経営判断が、自社の方針ではなく、プラットフォームの評価システムに支配されている。これは健全な状態とは言えない。


「DXしたつもりが、プラットフォームの奴隷になっていた」

ある旅館経営者が漏らしたこの一言が、問題の本質を突いている。

観光庁が推進する「観光DX」。その掛け声のもと、多くの旅館がオンライン予約システムを導入した。確かに、電話予約の手間は減り、24時間予約を受け付けられるようになった。

しかし、その「DX」の実態は、自社の顧客データと利益を大手プラットフォームに差し出すことだった。

自社サイト予約比率1割以下の現実

中小旅館の多くは、自社サイトからの直接予約比率が10%以下にとどまっている。

理由は明確だ。OTAは莫大な広告費を投じて「旅行予約はじゃらん」「楽天トラベルでポイント獲得」というイメージを消費者に刷り込んでいる。個々の旅館が自社サイトでSEO対策をしても、OTAの検索順位には到底勝てない。

結果として、旅館は「OTAに掲載してもらう」立場に甘んじ、手数料を払い続けるしかなくなる。

プラットフォーム依存から脱却したい。でも、自社でシステムを作るには予算が足りない——そう考えている経営者は多いのではないだろうか。実は、AI駆動開発の進化により、従来の半分以下のコストでECサイトや予約システムを構築できる時代になっている。TechTimeの見積もりシミュレーター(https://techtime-jp.com/simulator)では、打ち合わせ不要で概算金額を確認できる。まずは「自社システム構築」という選択肢が現実的かどうか、数字で確かめてみてほしい。


脱・プラットフォーム依存の先行事例

では、この構造から抜け出す方法はないのか。実は、すでに成功事例が生まれている。

由布院温泉:地域DMOによる共同予約サイト

大分県由布市の由布院温泉では、由布院温泉観光協会が中心となり、地域DMO(観光地域づくり法人)として独自の予約プラットフォームを運営している。

由布院温泉観光協会が運営する公式サイトでは、加盟旅館の予約を一括で受け付ける仕組みを構築。手数料は5%以下に抑えられており、OTAの3分の1程度だ。

この取り組みが成功した背景には、由布院温泉のブランド力がある。「由布院に泊まりたい」という明確な目的を持った旅行者は、OTAではなく公式サイトを直接検索する。地域全体でブランドを育ててきた歴史が、プラットフォーム依存からの脱却を可能にした。

城崎温泉:LINE公式アカウントでリピーター囲い込み

兵庫県豊岡市の城崎温泉では、個々の旅館がLINE公式アカウントを活用し、リピーター向けの直接予約を増やす取り組みが広がっている。

城崎温泉の旅館では、宿泊客にLINE友だち登録を促し、次回予約時には公式サイトから直接予約してもらう動線を作っている。LINE限定の特典や、季節の便りを定期的に配信することで、OTAを経由せずにリピーターとの関係を維持している。

ある旅館では、この取り組みにより直接予約比率が15%から35%に向上。年間で約300万円の手数料削減につながったという。

「LINEで『来月、蟹の季節ですよ』と送るだけで予約が入る。お客様との関係が、数字の上だけじゃなくて、人と人のつながりに戻った気がします」

城崎温泉の旅館経営者はこう語る。

草津温泉:QRコード決済と顧客データの自社管理

群馬県草津町の草津温泉では、温泉街全体でキャッシュレス決済の導入を進めるとともに、顧客データを地域で共有・活用する取り組みが始まっている。

草津温泉観光協会は、QRコード決済の導入支援を行いながら、決済データを分析して「どの客層が、いつ、何にお金を使っているか」を可視化。この情報を加盟旅館に還元することで、OTAに頼らないマーケティングを実現しつつある。


プラットフォーム依存から抜け出すための3つのステップ

先行事例から見えてくるのは、脱・プラットフォーム依存には段階的なアプローチが必要だということだ。

ステップ1:現状の「本当のコスト」を把握する

まず、OTAに支払っている手数料の総額を正確に把握する。基本手数料だけでなく、プロモーション費用、ポイント原資など、すべてを洗い出す。

多くの旅館経営者は、「手数料は10%程度」と認識している。しかし実際に計算すると15%を超えているケースが大半だ。現実を直視することが、変化の第一歩になる。

ステップ2:リピーターとの直接接点を作る

いきなりOTAを切ることは現実的ではない。まずは、既存のリピーター客との直接的な関係構築から始める。

LINEやメールマガジン、あるいは宿泊時のアンケートを通じて連絡先を取得し、次回は公式サイトから予約してもらう動線を作る。新規客はOTA、リピーターは直接予約——この使い分けだけでも、手数料負担は大きく変わる。

ステップ3:自社予約システムの構築を検討する

直接予約の受け皿となる自社予約システムは、かつては高額な投資が必要だった。しかし現在は、クラウドサービスやAI駆動開発の普及により、中小旅館でも手が届く価格帯になっている。

年間800万円の手数料を払い続けるなら、その2〜3年分で自社システムを構築し、以降の手数料をゼロにする——この計算が成り立つケースは少なくない。


地域の利益は、地域に残すべきだ

OTAが日本の観光産業に果たした役割は大きい。インターネット黎明期に、地方の小さな旅館でもオンライン予約を受け付けられる仕組みを作ったのは、間違いなく功績だ。

しかし、そのビジネスモデルが「地域から東京への利益移転装置」として機能している現実は、直視すべきだろう。

宿泊料金の15%が地域外に流出するということは、その分だけ地域の雇用や投資が減るということだ。旅館の利益が減れば、地元の仕入れ先への発注も減る。温泉街の飲食店や土産物店にも影響が波及する。

⚠️ 見過ごせない事実
年商1億円の旅館がOTA経由で70%を売り上げる場合、年間約1,000万円が手数料として東京のプラットフォーム企業に流出している。この金額を地域内で循環させられれば、雇用創出や設備投資に充てられる。

まとめ:「便利」の代償を見直す時

デジタル化は手段であって、目的ではない。

「ネット予約ができるようになった」ことと、「経営が良くなった」ことは、必ずしもイコールではない。むしろ、安易なプラットフォーム依存は、地域の自立性を奪う結果につながりかねない。

由布院や城崎の事例が示すように、脱・プラットフォーム依存は不可能ではない。必要なのは、現状のコストを正確に把握し、段階的に直接予約比率を高めていく戦略だ。

この記事の結論
OTAへの依存は「DX」ではなく「利益の外部流出」。由布院温泉の地域DMOや城崎温泉のLINE活用のように、直接予約比率を高める取り組みが、地域経済を守る鍵になる。まずは自社のOTA手数料総額を把握し、リピーターとの直接接点づくりから始めてみてほしい。

「プラットフォーム手数料に年間○○万円払っているなら、自社システム構築も選択肢に入るかもしれません」——まずは見積もりシミュレーター(https://techtime-jp.com/simulator)で概算を確認してみてはいかがだろうか。打ち合わせ不要、3分で金額感がわかる。


参考資料・根拠URL:

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