「NECの'20年選手'が新技術を学ばない理由」
「AWS?うちの案件では使わないからいいよ」
NECのある部門で、入社20年を超えるベテランSEがそう言い切った場面に、私は立ち会ったことがある。クラウド移行の提案を持ちかけた若手に対する返答だった。
この会話を聞いたとき、正直に言えば「やる気の問題」だと思った。本人が怠けているだけだ、と。しかし、NECの人事制度や案件構造を詳しく知るにつれて、考えは変わっていった。
彼が新技術を学ばないのは、極めて合理的な判断だったのだ。
💡 この記事のポイント
- NECの報酬体系では、技術スキル向上が収入増加に直結しない構造がある
- 既存スキルで回る案件が大量に存在し、新技術習得のリスクが高い
- 問題は個人の怠慢ではなく、人月商売に基づく業界全体の構造にある
なぜ「学ばない」が合理的な選択になるのか
NECで20年以上働くベテランSEが新技術を学ばない理由は、大きく3つの構造的な問題に起因している。
学んでも単価が上がらない
NECの報酬体系において、技術スキルの向上が直接的な収入増加に結びつきにくい構造がある。
NECは職能資格等級制度を採用しており、等級が上がらなければ基本給は大きく変わらない。そして等級昇格の評価軸は、必ずしも技術力ではない。プロジェクトの成功、顧客との関係構築、部下の育成——これらが重視される。
AWSの認定資格を取得しても、Kubernetesを習得しても、それだけでは等級は上がらない。むしろ、既存の得意分野で確実に案件をこなすほうが、評価につながりやすいのである。
「資格手当?月に数千円程度ですよ。土日を潰して勉強する動機にはならない」
ある NEC 社員がこぼした本音だ。
既存スキルで回る案件が山ほどある
NECが抱える案件の多くは、官公庁や大企業の基幹系システムである。これらのシステムは、枯れた技術で構築されていることが少なくない。
COBOL、Java(しかも古いバージョン)、オンプレミスのOracle。これらを保守・運用する案件は今も大量に存在する。そして、これらの案件を回せる人材は社内で希少価値を持っている。
「レガシー技術の専門家」というポジションは、社内では安定した居場所を意味する。新技術を学んで不慣れな領域に飛び込むよりも、既存スキルで確実に案件をこなすほうが、キャリア的にはリスクが低いのだ。
会社が学習に投資しない
NECの研修制度は存在するが、業務時間外での自己学習が前提になっているケースが多い。プロジェクトのスケジュールは常にタイトで、「業務時間内に新技術を学ぶ」余裕は与えられない。
⚠️ 見過ごせない事実 NECの2024年度有価証券報告書によると、研究開発費は売上高の約4%程度で推移。人材育成への投資額は非公開だが、業界関係者からは「十分とは言えない」という声が根強い。
「研修に行きたいと言ったら、『案件が落ち着いてから』と言われた。2年経っても落ち着かなかった」
これもまた、現場から聞こえてくる声である。
人事制度が生み出す「合理的な停滞」
この問題は、個人の意欲の問題ではなく、インセンティブ設計の問題なのだ。
NECに限らず、日本の大手SIerの多くは「人月商売」を基本としている。エンジニアの価値は「何ができるか」ではなく「何時間働けるか」で測られる。
この構造の下では、生産性を上げるインセンティブが働かない。新技術を学んで開発効率を2倍にしても、請求できる人月は半分になってしまう。会社としても、エンジニア個人としても、効率化のメリットが薄いのである。
むしろ、時間をかけて丁寧に作業し、長期間の保守契約を結ぶほうが、売上は安定する。これが大手SIerの収益モデルであり、「学ばない」ベテランを生み出す土壌なのだ。
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NECの「専門職制度」は機能しているか
NECは2018年に人事制度改革を発表し、「専門職」の処遇改善を掲げた。技術力で評価されるキャリアパスを整備するという触れ込みだった。
しかし、現場の声を聞く限り、この制度が十分に機能しているとは言い難い。
専門職として認定されるハードルは高く、認定されても管理職と同等以上の処遇を得られるケースは限定的だという。結果として、優秀なエンジニアは「技術を極める」よりも「管理職になる」道を選びがちになる。
技術を磨いても報われないなら、誰が技術を磨くだろうか。
海外企業との比較で見える異常さ
Googleのエンジニアは、Individual Contributor(IC)として技術を極めるキャリアパスが明確に存在する。Senior Staff EngineerやPrincipal Engineerといった上位の技術職は、マネージャーと同等かそれ以上の報酬を得られる。
Amazonでは、技術力に基づく厳格な評価制度があり、スキルアップが直接的な昇進・昇給につながる。レベル6のエンジニアがレベル7に上がれば、報酬は大幅に増加する。
⚠️ 日米の差は歴然 levels.fyiのデータによると、GoogleのSenior Software Engineerの総報酬は年間40万ドル(約6,000万円)を超えるケースも珍しくない。一方、NECの同等レベルのエンジニアは、年収1,000万円に届かないことが多い。
翻って日本の大手SIerでは、技術力よりも「案件を回せるか」「顧客と良好な関係を築けるか」が重視される。これは悪いことではないが、技術者としての成長意欲を削ぐ要因になっている。
「NECの20年選手」が新技術を学ばないのは、日本のSI業界全体に共通する構造的な問題の表れなのである。
では、どうすればよいのか
この構造的な問題に対して、発注企業側ができることは何だろうか。
まず、ベンダー選定の際に「技術力」を正しく評価することが重要になる。提案書の見栄えや過去の実績だけでなく、実際に開発を担当するエンジニアのスキルセットを確認すべきだ。
次に、人月ベースではなく成果ベースの契約形態を検討することも有効である。固定価格契約やアウトカムベースの契約であれば、ベンダー側にも生産性向上のインセンティブが生まれる。
そして、大手SIerだけに依存しない発注先の多様化も検討に値する。AI駆動開発を活用した新興企業は、大手の半額以下のコストで、同等以上の成果を出せるケースが増えている。
まとめ
NECの"20年選手"が新技術を学ばないのは、個人の怠慢ではない。学んでも報われない人事制度、既存スキルで回る案件構造、会社の投資不足——これらが絡み合った結果として生まれる、極めて合理的な行動なのだ。
問題は個人にあるのではなく、構造にある。そして、その構造を変えられないなら、発注企業側が別の選択肢を持つしかない。
✅ 結論 「人月」という呪いから解放される方法は、確かに存在する。AI駆動開発は、生産性で勝負する新しい開発スタイルを可能にしている。従来の見積もりに疑問を感じているなら、まずはTechTimeの見積もりシミュレーターで相場を確認してみてほしい。打ち合わせ不要、3分で概算金額がわかる。
参考資料・根拠URL:
NECに関する基本情報:
SI業界の構造に関する情報:
海外企業の報酬体系に関する情報: