2026/01/23 経営・DX

マイナンバーカード×交通ICで「車依存」を脱却〜前橋市MaeMaaSが描く、高齢者も安心して移動できる地方都市の姿〜

マイナンバーカード×交通ICで「車依存」を脱却〜前橋市MaeMaaSが描く、高齢者も安心して移動できる地方都市の姿〜

「100メートル先のコンビニにも車で行く」——群馬県前橋市で暮らす人々の日常は、まさにこの一言に集約されます。人口1,000人あたりの自動車保有台数が全国1位(728台)という圧倒的な車社会。しかしそこには、「車がなければ生活できない」という切実な課題が潜んでいました。

💡 この記事でわかること
マイナンバーカードと交通系ICカードを連携させた「国内初」の住民割引MaaS
154事業者が参画した官民連携の成功要因
バス6社共同経営という全国3例目の取り組み
複数システム連携が必要なMaaS基盤をAI駆動開発で構築する可能性

「誰も使わない交通ならサービスにならない」——山本龍市長の危機感

2022年11月、前橋市長定例記者会見で山本龍市長は「MaeMaaS」の社会実装を発表しました。

「誰も使わない交通ならそれはサービスにならない。前橋市はこの10年間、一つひとつステージを上げてきました。市民の足を便利にしていく──そんなストーリーがいよいよ見えてまいりました」

この言葉の背景には、前橋市が抱える深刻な「車依存」の実態があります。

数字が物語る「車なしでは生きられない」現実

群馬県のパーソントリップ調査によると、前橋市民の移動実態は驚くべきものでした。

  • 通勤時の自動車利用率:84.8%
  • 業務目的での自動車利用率:93.5%
  • 100メートル未満の移動でも26.3%が自動車を利用
  • 公共交通(鉄道・バス・タクシー)の利用率:わずか5%

さらに深刻なのは、運転免許を持たない人々の外出率です。免許保有者の外出率が77.5%であるのに対し、非保有者は44.9%と大きな格差が存在していました。

外出時の移動手段で最も多いのは「家族・親族による自動車での送迎」で42%。送る側の家族の負担も大きく、これは高齢者だけの問題ではありません。


「スーパーシティ×スローシティ」——前橋市が描いた独自のビジョン

前橋市は2020年、政府の「スーパーシティ構想」に名乗りを上げました。しかし、単なるデジタル化ではなく、前橋市が掲げたコンセプトは「スーパーシティ×スローシティ」という独自のものでした。

山本龍市長は事業構想オンラインのインタビューでこう語っています。

「時間の余裕が心の余裕を生み、クリエイティビティの発揮や豊かな暮らしにつながる。市民の抱えるさまざまな困りごとや制約をデジタル技術や規制緩和で解決し、時間と心に余裕を生み出す」

「まえばしID」——マイナンバーカード×SIM×顔認証の三位一体

前橋市が構想した「まえばしID」は、マイナンバーカードの個人認証にスマートフォンのSIMカードと顔認証を組み合わせた新しい住民IDです。

これを基盤として、行政の保有データ(医療、世帯、教育など)と民間企業の保有データ(口座、交通、購買など)を連携させ、市民一人ひとりに最適化されたサービスを提供することを目指しました。

154事業者が参画した官民連携

2021年2月、前橋市はスーパーシティ構想への申請に向けて、154の事業者と連携することを発表しました。

事業提案は104件に上り、分野別では以下の通りでした。

  • ヘルスケア・医療分野:30件(最多)
  • 教育分野:19件
  • 環境・エネルギー分野:15件
  • 交通分野:14件

アーキテクトには、ジンズホールディングスの田中仁CEO(前橋市出身)や、日本通信の福田尚久社長(群馬県出身)など、ITに知見のある有識者が参加。「前橋市スーパーシティ準備検討会」では200回を超える議論が重ねられました。

⚠️ ポイント
前橋市のスーパーシティ構想は最終的に国の指定からは漏れましたが、その過程で培われた官民連携の基盤と「まえばしID」の構想は、MaeMaaSの社会実装に活かされています。

MaeMaaS(前橋版MaaS)の仕組み——国内初の試み

2020年12月、前橋市は「MaeMaaS」の実証実験を開始しました。その最大の特徴は、交通系ICカードとマイナンバーカードを連携させた国内初の住民割引です。

クラウド型ID認証システム「ID-PORT」の仕組み

JR東日本マーケティング(JREM)が提供するクラウド型ID認証システム「ID-PORT」に、以下の情報を紐づけています。

  • 交通系ICカード(Suica等)のID番号のみ
  • マイナンバーカード情報(居住地・生年月)
⚠️ プライバシーへの配慮
個人を特定できない形でデータを保存。TOPICが提供する認証サービスを活用し、居住地は都道府県と市区町村まで、生年は「月」のみを取得しています。

4種類のデジタルフリーパス

MaeMaaS(現GunMaaS)では、以下のデジタルフリーパスを販売しています。

フリーパス通常価格前橋市民価格
中心市街地乗り放題(1日)大人500円360円
マイバス乗り放題(1日)大人310円200円
上毛電鉄全線(1日)大人1,300円800円
前橋市内共通定期券200円均一区間デジタル化対応

3地区で運行するデマンド交通

前橋市では郊外3地区でデマンドバス(予約型乗合バス)を運行しています。

  • ふるさとバス(大胡・宮城・粕川地区):8:30〜19:00
  • るんるんバス(富士見地区):8:00〜19:00
  • 城南あおぞら号(城南地区):8:30〜16:30

約300mごとに乗降ポイントが設置されており、最大150m歩けば乗車できます。GunMaaSのアプリから予約も可能で、電話予約にも対応しています。

年齢・属性に応じた自動割引

マイナンバーカード認証により、以下の割引が自動適用されます。

  • 前橋市民割:路線バス10%OFF、デマンドバス割引、フリーパス特別価格
  • 敬老割引(70歳以上):路線バス10%OFF
  • 若者割引(15〜22歳):路線バス10%OFF
💡 2024年1〜3月の若者向け施策
15〜22歳の前橋市民を対象に、市内を通るすべてのバスや上毛電鉄の土日祝日の運賃を無料にする施策を実施。この期間の登録者の伸び率は特に高かったとのことです。

バス6社共同経営——全国3例目、東日本初の挑戦

MaeMaaSの成功を支えるもう一つの柱が、バス事業者6社による共同経営です。

独占禁止法特例法の活用

2021年9月、国土交通省は以下の6社から申請のあった共同経営計画を認可しました。

  • 関越交通
  • 群馬バス
  • 群馬中央バス
  • 上信電鉄
  • 永井運輸
  • 日本中央バス

これは独占禁止法特例法(令和2年法律第32号)に基づく認可で、全国3例目、東日本では初の事例となりました。

「本町ライン」の等間隔運行

共同経営の対象となった「本町ライン」(JR前橋駅〜県庁前、約3km)では、従来こんな問題がありました。

  • 同時刻に4本が発車することがある一方、30分以上の間隔が空く時間帯も存在
  • 6社11路線がバラバラにダイヤを最適化していたため、全体では非効率

2022年4月からは、JR両毛線の運行ダイヤに合わせて15分間隔の等間隔運行を実現。平日・土日祝日の10時〜16時に、利用者が「いつ行っても15分以内にバスが来る」状態になりました。

効果

2026年度までに6社合計で約1,700万円の収入増を見込んでいます。

複数システム連携のMaaS基盤、費用感が気になりませんか?

前橋市のMaeMaaS/GunMaaSのような複数システム連携プラットフォームを構築する場合、一般的な開発会社に依頼すると数千万円〜1億円以上の見積もりになることも珍しくありません。

しかし、AI駆動開発なら話は変わります。

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MaeMaaSからGunMaaSへ——県全域への展開

2023年3月15日、前橋市の「MaeMaaS」は群馬県版MaaS「GunMaaS」へとサービスをリニューアルしました。山本一太群馬県知事と山本龍前橋市長の合同記者会見で発表されたこの展開は、前橋市の実績を群馬県全域に広げる試みです。

利用登録者数の推移

  • 2023年3月時点(GunMaaS開始時):3,882人
  • 2024年5月末時点14,322人(約3.7倍に増加)
  • うち県民:44%

MM総研大賞2024 MaaS分野 最優秀賞を受賞

2024年7月、GunMaaSは「MM総研大賞2024」スマートソリューション部門MaaS分野において最優秀賞を受賞しました。都道府県としては初の受賞です。

審査では「経路検索から予約・決済などといったMaaSの基本機能に加え、マイナンバーカードを活用し、特定エリアの住民や年代を対象とした割引制度を展開している点が先進的」として高く評価されました。


自動運転バスへの挑戦——レベル4社会実装を目指して

前橋市は公共交通改革の次のステージとして、自動運転バスの導入を目指しています。

群馬大学との産官学連携

2017年、前橋市は群馬大学次世代モビリティ社会実装研究センター(群馬大学CRANTS)、日本中央バスと連携協定を締結。以下のような実証実験を重ねてきました。

  • 2019年:国内初の路線バス自動運転(レベル2)バス2台同時運行
  • 2020〜2021年:遠隔操作管制による自動運転実証実験
  • 2021年2月:5G×自動運転バス×マイナンバーカード×顔認証の実証実験

現在、JR前橋駅と上毛電鉄中央前橋駅間の約1kmで、レベル4(完全自動運転)の社会実装を目指し、国土交通省への認可申請準備を進めています。

期待される効果

  1. ドライバー不足解消・バス会社の収支改善
  2. 利用料金の値上げ抑制
  3. 需要に応じた運行数増加が可能に
  4. 中心市街地への人流増加
  5. 自動運転トップランナーとしてのブランド力向上
  6. DX人材の育成

AI駆動開発との接続——複数システム連携MaaS基盤の可能性

ここまで見てきたように、MaeMaaS/GunMaaSは以下のような複数のシステムが連携して動いています。

  • リアルタイム経路検索システム
  • バスロケーション(位置情報)システム
  • デマンド交通予約システム
  • AI配車システム(SAVS)
  • クラウド型ID認証システム(ID-PORT)
  • 交通系ICカード決済システム
  • マイナンバーカード認証連携
  • デジタルフリーパス販売システム

従来、このような複数システムの統合設計からAPI連携まで構築するには、膨大な時間とコストがかかりました。

Before:従来の開発アプローチ

  • 要件定義だけで3〜6ヶ月
  • 複数ベンダーとの調整で工期が延びる
  • 仕様変更のたびに追加費用
  • 総額:数千万円〜1億円以上

After:AI駆動開発なら

  • 設計フェーズの高速化:外部設計書の初版を10分で生成
  • API連携の効率化:複数システム間のデータ連携を自動設計
  • 品質担保:自動テストと多段階レビューによる品質管理
  • コスト:従来の50%以下で実現可能

前橋市のような官民連携プラットフォーム(154事業者参画規模)でも、AI駆動開発なら統合設計からAPI連携まで短期間・低コストで実現できます。


まとめ——「時間と心に余裕ある暮らし」を実現するために

前橋市のMaeMaaS/GunMaaSの取り組みは、単なる「便利なアプリ」の導入ではありません。

  • 車がなければ生活できないという制約から住民を解放する
  • 高齢者が安心して免許を返納できる社会をつくる
  • 家族の送迎負担を軽減する
  • 時間と心に余裕ある暮らしを実現する

そのために、マイナンバーカードと交通系ICカードの連携、バス6社の共同経営、自動運転バスの導入など、前例のない挑戦を続けています。

前橋市の取り組みから学べること

技術導入が目的ではなく、「住民の時間価値向上」が目的
官民連携の基盤づくりには時間をかける(200回超の議論)
既存の法制度も活用する(独占禁止法特例法)
アジャイル開発で利用者の声を即座にフィードバック

地方都市の交通課題は、前橋市だけの問題ではありません。車依存からの脱却は、全国の地方自治体に共通する課題です。

「100メートル先のコンビニにも車で行く」——その日常を変えるために、前橋市の挑戦は続いています。


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参考資料・根拠URL:

前橋市MaeMaaS/GunMaaSに関する公式情報:

メディア報道・事例紹介:

バス6社共同経営に関する情報:

自動運転・DX推進に関する情報:

MM総研大賞受賞に関する情報:

その他統計データ: